マルチギガビットに対応したネットワーク製品は発熱が課題とされています。スイッチングハブの場合、ファンレス設計の機種は特に熱対策が重要となっています。スイッチングハブでもっとも温度を下げたいのはCPU。高速で安定したネットワークを維持するためにはCPUの温度を下げることが重要となります。次に温度を下げたいのは筐体上面(天板)。手を触れやすい筐体上面が「触れないほど熱い」という状況は避けたいと思われます。
前編では様々な設置方法でスイッチングハブのCPU、筐体の温度変化を検証しました。
効果が高かった設置方法は
@ スチール机にマグネットを利用して設置
A ゴム足なしでアルミ板に設置
でした。後編ではヒートシンクを筐体に貼り付ける、USB扇風機の風を当てるなど、より積極的な放熱対策の効果を検証します。

■ スイッチングハブにヒートシンクを貼り付ける
インターネットでは発熱の多い10Gbps対応のスイッチングハブなどに、ヒートシンクを貼り付け熱対策をしている人がいます。どれくらい効果があるのか検証してみました。
用意したヒートシンクは100×35mm、高さ10mmを2つ(2つで1500円台)と熱伝導両面テープ(600円台)。これを
5ポート 2.5GBASE-Tスイッチングハブ「FX2G-05EM」の筐体上面(天板)に貼り付けました。
ヒートシンクを貼り付ける前の標準状態の各測定ポイントの温度は
CPU |
62.7℃ |
ヒートシンク |
54.1℃ |
筐体下面 |
51.8℃ |
筐体上面 |
40.3℃ |
これに対しヒートシンクを貼り付けた後の温度はこのようになりました。カッコ内は標準状態との差です。
CPU |
62.5℃ (-0.2℃) |
ヒートシンク |
53.8℃ (-0.3℃) |
筐体下面 |
51.1℃ (-0.7℃) |
筐体上面 |
40.2℃ (-0.1℃) |
予想外、期待外れ、残念なことに温度変化は極わずかでした。効果が現れなかった理由は、FX2G-05EMの筐体上面の温度が低かったからだと思われます。筐体上面が「触れないほど熱い」機種であればヒートシンクの放熱効果はもう少しあったかもしれません。
■ スイッチングハブにUSB扇風機で風を当てる
ヒートシンクと同様にインターネットで時々見かけるのがUSB扇風機でスイッチングハブに風を当て冷却する熱対策です。今回は30cmほどの距離に置いたUSB扇風機からFX2G-05EMの正面(RJ45ポート側)と側面(放熱用スリット側)に風を当て、各測定ポイントの温度変化を調べてみました。
正面から風を当てたときの温度はこのようになりました。カッコ内は標準状態との差です。
CPU |
55.4℃ (-7.3℃) |
ヒートシンク |
47.9℃ (-6.2℃) |
筐体下面 |
46.7℃ (-5.1℃) |
筐体上面 |
34.7℃ (-5.6℃) |
次に側面から風を当てたときの温度。カッコ内は標準状態との差です。
CPU |
52.3℃ (-10.4℃) |
ヒートシンク |
45.4℃ (-8.7℃) |
筐体下面 |
46.3℃ (-5.5℃) |
筐体上面 |
34.4℃ (-5.9℃) |
正面でも側面でもUSB扇風機による熱対策は効果が確認できました。特に側面から送風するとスリットから内部に風が入ることで大きな効果が期待できます。USB扇風機の風量は機種に依存しますし、設置する距離によっても効果に差があると思われますので、今回の温度は参考値となりますが、「風を当てる」ことは人間もスイッチングハブも涼しくなると言えます。
USB扇風機はこれまでの検証でもっとも効果が高い方法ですが、長期的な運用を考えると最良の対策とは言えないと思います。冷蔵庫やWi-Fiルーターと同様スイッチングハブは24時間、365日稼働することが多い製品の1つです。加えてスイッチングハブは5年、10年と使い続けることが珍しくありません。数年の長期にわたり24時間USB扇風機で風を送り続けるのは耐久性の問題もありそうですし、スマートではない方法と感じられます。“夏の暑い時期限定”など運用には工夫が必要かもしれません。
メンテナンス不要で効果的なのは、前編で紹介した「スチール机にマグネットを利用して設置」「ゴム足なしでアルミ板に設置」の2つが確実だと思われます。
■ 下面放熱を外してみたら
前編でも「FX2G-05EMは両面放熱方式を採用し……」と説明をしました。最後は両面放熱方式の効果を検証してみます。両面放熱方式はCPU上面のヒートシンクに加え、CPU下面の熱を筐体下面(底面)からも補助的かつ積極的に放熱しCPUの温度を下げる方式です。
FX2G-05EMの基板を外すとCPUの下面に低硬度・放熱用シリコーンパッド、熱拡散放熱用アルミプレート、難燃性ポリカーボネートシートがあります。これらを外して基板の下に空間を作りました。この状態で一般的なスイッチングハブと同様ヒートシンクだけで放熱させたときの温度を計測してみました。
下面放熱を外すと温度はこのようになりました。カッコ内は標準状態との差です。
CPU |
79.4℃ (16.7℃) |
ヒートシンク |
67.6℃ (13.5℃) |
筐体下面 |
49.8℃ (-2.0℃) |
筐体上面 |
43.0℃ (2.7℃) |
CPUとヒートシンクの温度は急激に上昇しました。筐体上面の温度は少し上昇。筐体下面は数mmの隙間ができたことで温度が少し下がりました。CPUの温度を見ると両面放熱方式の効果が大きいことが分かります。
前編の検証も加えてすべての計測結果を計測ポイントごとのグラフにしました。マルチギガビットスイッチングハブの発熱が気になる人は、参考にしていただきたいと思います。
ネットワークをもっと快適に