マルチギガビットスイッチングハブの発熱は
設置方法で抑えられるか?(前編)
〜2.5GbEスイッチングハブの設置を徹底的に検証してみました〜

2.5Gbps、5Gbps、10Gbpsなどマルチギガビットに対応したネットワーク製品は発熱が課題とされています。スイッチングハブの場合、ファンレス設計の機種は特に熱対策が重要となっています。実際にインターネット上では機種によって「触れないほど熱い」「USB扇風機で冷やしている」など熱に対するコメントが散見されます。
スイッチングハブでもっとも温度を下げたいのはCPUだと考えられます。スイッチングハブに搭載されたCPUはデータ転送による負荷がかかると発熱量が多くなり、冷却が充分でないとCPUは自動的に転送速度を落とす(サーマルスロットリング)などして温度を下げますが、それにより10Gbpsが1Gbpsに落ちたり、データ転送が停止したりします。高速で安定したネットワークを維持するためにはCPUの温度を下げることが重要となります。次に温度を下げたいのは筐体上面(天板)。手を触れやすい筐体上面が「触れないほど熱い」という状況は、できるだけ避けたいと思われます。
スイッチングハブは設置方法を工夫することでCPU、ヒートシンク、筐体などの温度を下げることが可能です。今回は色々な設置方法を試して、実際にスイッチングハブのCPU、ヒートシンク、筐体の温度がどう変化するかを検証してみました。
この特集では5ポート2.5GBASE-Tスイッチングハブ「FX2G-05EM」を使用して検証をしていますが、市販されている様々なマルチギガビットスイッチングハブの熱対策に一定の効果があると思われます。

■ CPU、ヒートシンク、筐体上面、筐体下面を計測

この検証ではK型熱電対プローブをCPU、ヒートシンク、筐体の上面、筐体の下面に貼り付け、スイッチングハブにiperfを使用して負荷をかけ、温度が安定した状態(1.5〜2時間後)の値を計測値としています。概ね垂直方向にCPUと同じ位置(真上、真下)にプローブを貼り付け計測しています。
ただし計測値は絶対的なものではありません。例えば計測用のパソコンを変更すると転送速度が変わり温度が上下します。また筐体の温度は室温の影響を受けやすく、加えて天板全体の温度が一定ではなく計測位置が数mmズレると値が異なります。計測値はあくまで参考値として傾向を見ていただきたいと思います。

■ 木の机に設置(標準状態)

まずは普通に使用してみます。FX2G-05EMを木の机に設置して測定ポイントの温度変化を見てみます。この設置方法を標準状態として、各測定ポイントの値が安定したときの温度を比較の基準とします。
電源オンと同時にiperfで負荷をかけると、各測定ポイントの温度が上昇します。計測開始から1時間半ほどで、各測定ポイントの温度が概ね一定となりました。
各測定ポイントの温度は以下のとおりです。
CPU 62.7℃
ヒートシンク 54.1℃
筐体下面 51.8℃
筐体上面 40.3℃
筐体の上面(天板)が下面より温度が低いのはFX2G-05EMが熱対策として両面放熱方式を採用しているからです。一般的にファンレスのスイッチングハブはCPUの上面に貼られたヒートシンクで放熱を行います。CPUの熱は高温になったヒートシンクから空気に伝わり、筐体のスリットや筐体表面から外部に放熱されます。
FX2G-05EMは熱対策として両面放熱方式を採用し、下面でも補助的な放熱を行っています。基板に実装されたCPUの熱は上面のヒートシンクだけでなく基板にも伝わります。FX2G-05EMはCPU直下の基板の下面に低硬度・放熱用シリコーンパッドを貼り、基板の下に配置した熱拡散放熱用アルミプレートに熱を伝えます。熱拡散放熱用アルミプレートの熱は難燃性ポリカーボネートシートを介し筐体の下面に伝わります。主な放熱は上面のヒートシンクですが、補助的に下面からも放熱することで、CPUと筐体上面(天板)の温度を下げています。その結果、筐体上面より下面の方が温度が高くなっています。

■ スイッチングハブの下にアルミ板を敷いて設置

次はアルミ板(200×300×2mm:700円台)をスイッチングハブの下に敷いてみました。熱が伝わりにくい木の机の上に熱の伝わりやすいアルミ板を敷くことで、スイッチングハブの筐体下面から熱を効率的に逃がすことができます。
各測定ポイントの温度は以下のとおりです。カッコ内は標準状態との差です。
CPU 57.7℃ (-5.0℃)
ヒートシンク 50.1℃ (-4.0℃)
筐体下面 42.5℃ (-9.3℃)
筐体上面 37.8℃ (-2.5℃)
筐体下面の熱がアルミ板に伝わることで放熱が進み、筐体下面は約9℃、CPUは5℃下がりました。スイッチングハブを設置する際は、木製の机・棚より金属製の机・棚の方が放熱が期待されます。

■ 木ネジで縦姿勢に設置

多くのスイッチングハブは、壁掛け設置用に木ネジなどを使用して縦姿勢で取り付けるための十字の穴が背面に用意されています。次はスイッチングハブを縦姿勢で設置したときの温度を確認してみました。各測定ポイントの温度は以下のとおりです。カッコ内は標準状態との差です。
CPU 58.1℃ (-4.6℃)
ヒートシンク 50.6℃ (-3.5℃)
筐体下面 49.5℃ (-2.3℃)
筐体上面 38.1℃ (-2.2℃)
FX2G-05EMは放熱用のスリットが筐体の左右にあります。縦姿勢にすることでスイッチングハブ内部の熱が上に抜けやすくなりエアフローの改善により全体的に温度が下がっています。縦姿勢で設置する場合の注意点は放熱用のスリットをふさがないことです。文庫本のように立てると、下側のスリットをふさいでしまうため空気が抜けにくくなります。

■ マグネットを使ってスチール机に縦姿勢で設置

オフィスなどではスチール机の側面に、スイッチングハブをマグネットを利用して設置するケースが見られます。FX2G-05EMにはマグネットが同梱されていないので、市販のマグネット(フック穴付きタップ用 マグネット [HS-A0166]:200円台)を使用してスチール机の脚に設置しました。
各測定ポイントの温度は以下のとおりです。カッコ内は標準状態との差です。
CPU 54.8℃ (-7.9℃)
ヒートシンク 47.5℃ (-6.6℃)
筐体下面 44.6℃ (-7.2℃)
筐体上面 36.5℃ (-3.8℃)
縦姿勢とスチール机への放熱効果は大きくCPUは約8℃、筐体下面は約7℃、筐体上面は約4℃下がりました。家庭ではスチール机などマグネットが利用できる什器がないかもしれませんが、オフィスでは有効は設置方法だと思われます。

■ スイッチングハブをゴム足なしでアルミ板の上に設置

前編の最後はややイレギュラーな設置方法を試してみました。FX2G-05EMは両面テープで貼り付けるゴム足が付属しています。筐体下面からの放熱効率を上げるためやや厚めの仕様としています。このゴム足を使用せず(外して)、アルミ板に密着するように置いてみました。
各測定ポイントの温度は以下のとおりです(筐体下面はセンサープローグを外したため値なし)。カッコ内は標準状態との差です。
CPU 55.4℃ (-7.3℃)
ヒートシンク 48.9℃ (-5.2℃)
筐体上面 36.9℃ (-3.4℃)
筐体下面とアルミ板を密着させた放熱効果は大きく、CPUは約7℃、筐体上面は約3℃下がりました。スチール机+マグネットより温度の下がり幅は1℃弱少なくなっていますが、効果的な方法だと思われます。ゴム足を外してアルミ板を敷くだけですので、家庭でも導入しやすい方法と考えられます。アルミ板の下に何かを挟んで少し浮かすとさらに放熱効果が増すことも期待できます。

■ 放熱効果が高いのは「スチール机+マグネット」「ゴム足なし+アルミ板」

標準状態を含めた5つの設置方法で放熱効果が高いのは
@ スチール机にマグネットを利用して設置
A ゴム足なしでアルミ板に設置
となりました。
ただし、この結果はFX2G-05EMがCPUや筐体上面の温度を下げるため両面放熱方式を採用し、補助的かつ積極的に筐体下面から放熱している効果と考えられます。例えば市販の10Gbpsのスイッチングハブで筐体上面(天板)が「触れないほど熱い」機種では、スチール机やアルミ板への筐体下面からの放熱が期待したほどではないかもしれません。そのような機種では見た目が良くない&自己責任でスイッチングハブを裏返してアルミ板に天板を密着させると大きな放熱効果が得られ、「10Gbpsが1Gbpsに落ちる」ことを回避できる可能性があります。
今回の温度検証の値は参考値で、室温や負荷により異なりますが、設置方法によりCPUや筐体の温度が変化することは間違いありません。また使用したFX2G-05EMは、充分な熱対策がされていますので、一般的な使用では「何も考えずに設置」すれば問題なく使用できます。
これまでの結果を測定ポイントごとにグラフで表すと以下のようになります。
次回、後編ではヒートシンクを筐体に貼り付ける、USB扇風機の風を当てるなど、より積極的な放熱対策の効果を検証してみます。

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